標準規格とテクノロジードライバー



昨日10月23日は4年ぶりにPCI-SIG Developers Conference Asia-Pacific Tour (Tokyo)に参加してきた。

今年5月にPCI Express Base Specification 5.0が正式に発行され、PCIe 5.0がスタートした。市場にはまだまだPCIe 4.0対応製品が出始めたばかりだが、PCIeは次のステップを踏み出したことになる。PCIe 5.0では32GT/s(レーン当たり32Gbps)と4.0規格の2倍の速度をサポートする。これを実現した技術は、

  • 超低損失のプリント基板
  • トランスミッターのジッターを2倍以上低減
  • リファレンスクロックのジッターを3倍程度低減
  • 32GT/sに対応したリファレンスCTLEイコライザー

だと説明された。(Mazumder, ”PCIe 5.0 Electrical Update”)

あたかもPCI-SIGが技術を開発したかのような説明だが、もちろんこの規格標準団体の直接の成果ではない。ではPCI-SIGのような規格標準化団体は、ハードルの高い仕様だけ決めて、座して技術が開発されるのを待っているだけなのだろうか。

テクノロジードライバーは、標準化団体か企業か。

実現困難な仕様で規格を作っても標準にはなり得ない。なので標準化団体は業界のトレンドを見据えて規格を策定している。もちろん、中核を成す企業が先進的な技術開発を進めているため、難しい技術を先んじて取り入れることができる点もあるが、標準化することでフォロワーとなる業界の各企業も技術を進化させることができるという側面もある。なので、実際に技術開発をする主体は企業であっても、標準化によって先進的な技術を牽引しているといえる。

注意しなければならないのは、標準規格には開発企業の特許が含まれる可能性がある点だ。ほとんどの場合、標準化団体には競合する会社が参加しているので特定企業のみを利する技術は避けられるものだが、参加社の特許が入ってしまうこともある。また標準化したからと言って特許フリーになるわけでもないので気を付けたい。たいてい必須特許は安かったりライセンス料でカバーされるものではあるが。

 

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IBISを提供するお仕事

仕事でIBISを提供する機会があって苦労したので、その経験を記録しておこうと思う。

勤務先は半導体ベンダーなので、立場としてはIBISの提供者となる。主な仕事は半導体チップの外側、いわゆるプラットフォームの開発に関わっているので、普段はIBISのユーザーという立場である。
今回、お客様からの要望でIBISを用意することになった。お客様に提供する製品はカスタムLSIで、
・大手IPベンダーのIP (主に標準化された高速インターフェース)
・専門IPベンダーのIP
・社内IP
の混在となる。これらのIPを使って論理設計(いわゆるフロントエンド)はお客様が担当し、物理設計以降(バックエンド)はウチの会社が担当する。
弊社が販売している標準LSIは従来IBISを提供しており、今回と同じプロセスの標準製品もあるので、当初はそのIBISを流用すれば済むだろうと安易に考えていた。実際にはそう簡単な話ではなかった。

・大手IPベンダーのIP
数種類の標準的な高速シリアルインターフェイスIP。提供されるライブラリーにあらかじめIBISも含まれており、しかもIBIS-AMIで提供されているので精度面も含めて何も懸念することは無かった。さすが、IPで広く商売しているベンダーはきちんとしている。

・専門IPベンダーのIP
特定インターフェイスのIP。当初IBISの提供を打診したところ、これまで顧客にIBISを出した経験が無いということで、やり取りを繰り返してspiceモデルを入手した。お客様はIBISでの提供を希望されていたのと、そのspiceモデルを弊社から外に出すことに懸念があったため、spiceモデルから外部モデリングサービスを使ってIBISを作成することを考えた。作成の可否と見積もりをお願いしたが、このspiceモデルがマクロモデルであったため、ここからIBISを作ることは難しいようでなかなか回答をいただけなかった。そうこうしているうちに、IPベンダーからIBISが出てきた。向こうでも作成してくれていたようだ。シンプルなIBISなので精度の心配はあったが、一応の形を整えることはできた。

・社内IP
実は意外に厄介で一番手こずったのが社内IP。半導体メーカーなのだから自社のIBISを入手するのは簡単だろうと思われるだろうが、とんでもない。IPによって、というか担当部署によってそれぞれ対応が異なり、IBISの形式で出してくるところ、V-Iカーブのテーブルを出してくるところ、spiceモデルで出してくるところと様々だった。
どの形式でもこちらでIBISのフォーマットにまとめれば良いのだが、これが一筋縄ではいかない。
V-IカーブのテーブルがExcel形式で入手できたら単純にIBISフォーマットに当てはめてやればいいのだが、IBISは"Voltage I(typ) I(min) I(max)"なのに送られてきたテーブルはtyp, min, max毎に"Voltage - I"の並びになっていて、しかも電圧(Voltage)の値がそれぞれ違うので単純に編集で対応できなかった。データ処理でサンプリングし直せばいいのはわかるのだが、簡単にできる方法が無かったので差し戻してIBISにしやすいデータを作り直してもらった。
spiceモデルはそのままお客様に出すことはできないので、IBISオープンフォーラム公式のs2ibisを使ってIBISを作成することにした。何とか作ってみたIBISはV-Iカーブがリニアで、クランプ特性が入っていなかった。元のspiceモデルに戻って調べてみようとしたが、400MB近くある複雑なネットリストは追いかけるのも難しく、結局作成元にお願いすることにした。結局、このspiceモデルにはクランプダイオードが入っていなかったので、正しいものをV-Iテーブルで出してもらった。

バッファモデルだけでなく、パッケージモデルもひと悶着あった。IBISをもらう立場では、パッケージ全体のRLCが最も簡単に入手できる情報で、次にピン毎のRLCや分布定数モデルと詳細になるほど入手が難しくなる。Sパラとなるとなかなか出してもらうのが難しい。
しかし今回分かったのは、提供側からするとパッケージの設計データからSパラを抽出するのがもっとも簡単で、そこからRLCモデルを出すのはひと手間かかり、パッケージ全体のRLC値となるとさらにそこから適当な値をピックアップする手間を加えなければならない。
Sパラで提供できれば、ベンダー側は手間が掛からなくて済むし、ユーザー側も精度が得られて良いのだが、IBISの体裁としてはパッケージRLCも欲しいところ。

各IP担当から出てくるIBISバッファモデルを束ねて、ピンリストを作り、パッケージRLCを入れるだけの簡単なお仕事...という目論見は見事に外れた。
当初アテにしていた標準製品のIBISだが、結局、同じプロセスを使う世代のIBISは高速シリアルの標準インターフェイスのみ提供され、一般信号については提供されなかった。つまり、大手IPベンダーの用意したIBISのみ提供される形となった。

ユーザーの立場からすると、半導体ベンダーがIBISを準備するのは当たり前なのだが、半導体ベンダー側は必ずしもそう考えていないかもしれない。少なくともIBISを提供するプロセスが確立していない会社があるというのは現実だ。ベンダー社内で行うシミュレーションではspiceモデルが使えるので、わざわざIBISを作るのは外部に出すため、顧客に提供する以外の必要性が無い。
今回お客様に提供したIBISは、ユーザーの立場で見ると不完全で、個人的には納得していない。半導体ベンダーは内部でIBISを作成するプロセス、その品質を確認してレビュー、承認するプロセスをきちんと確立すべきだと思う。

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近況

昨年は忙しさにかまけてほとんど更新していませんでした。
それでも2017年には、
・JPCAショー
・ケイデンスのセミナー(CDN Live)
・キーサイトのセミナー
・テクトロのセミナー
・JEITA IBISセミナー/IBISサミット
・JIEP システム設計研究会
には参加してました。いつもならこちらに感想を書くところですが、忙しいというより琴線に触れるトピックが少なかったというのが大きな理由でしょうか。
ただ、個人的には大きな設計を完遂した(ここには書けませんが)のと、テクトロの5シリーズのような面白い計測器がリリースされたりと、書くべきトピックもあったように思います。
少しづつでも書き始めようかなと考えています。

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シンギュラリティー

トフラーの『第三の波』は情報化社会への変革を予言し、私達は正にその真っ只中にいるわけだが、では次に来る「第四の波」は何か。
トフラーは、新たに来る「波」がそれまでの社会の価値観や文明を脇に追いやるとしている。最初の農業革命は石器時代までの狩猟採集文明に取って代わり、第二の産業革命では工業化によって社会構造が大きく変わった。第三の波を経験した我々は、情報産業やサービスが儲かる、要するに価値が「モノ」から「実体の無いモノ」へと移行していく様子を目の当たりにしてきた。新たな波は古い物を上書きするわけではない、古い物も確かに必要だがそれらが価値を生み出さない...つまり儲からなくなるということ。私達の取り組んでいる「ものづくり」は、だから、儲からないけれど情報化社会を支えるのに必要な産業ということになる。
さて、次に来る「波」は向こう数十年のうちに訪れる「シンギュラリティー」であろうと唱える人達がいる。「シンギュラリティー」は「技術的特異点」という日本語が当てられ、それ自体は一般的に解釈できる言葉ではあるが、「人工知能が人間の知能を超えるポイント」という極めて特定的に説明されている。提唱者が「意識を解放すれば...」などと言ったがために、この未来予測に対して「信じる信じない」を超えて宗教がかったイメージがあったり、あるいは「人工知能が人間を支配する」との考え方からSFのように扱われがちだが、これまでの変革の例に倣えば果たして現在の情報化社会をインフラとして次に起きる価値転換は何か、と考えたとき、トフラーが予見した宇宙開発よりもより現実的に取りうる選択肢ではないだろうか。
(別解があるとすれば、バイオ技術の発展によって人類が工業的に生命を産み出すとか不老不死を実現するとかの「生命革命」があると思うけど)

現在、何度目かの人工知能ブームの背景にあるのは、インターネットによって蓄えられたビッグデータであり、情報化社会の成果物だといえる。インターネットは情報の宝石箱であるとも、またゴミ箱であるともいえるが、価値の如何はともかく、人類の集合知であることに間違いは無い。これを踏み台に次のステップとして人工知能が新たな価値を創造するのであれば、順当な変革だと言えるのではないだろうか。

シンギュラリティーの楽観論者には、人工知能の産み出す価値によって貧困は無くなり、ヒトは働かなくても生きていけるようになると考える人もいる。「貧富」は相対比較なので、貧富の差が無くなるわけではなさそうだが、少なくとも貧「困」が無くなり、仕事が無くても生活が保障される社会が到来することは良いことだし、「幸福の追求」という観点からすれば正しい方針なのだろう。

さて、そうなると「ものづくり」は人工知能がロボットを操作して勝手にしてくれる、などというSF的な世界はずっと先のこととしても、当面、設計をCADがある程度自動的にやってくれる、というのは期待してよいのではないか。
とはいえ、基板設計CADのオートルーターが、重要なところ、難しいところは人間がマニュアルで引いて、あとはオートルーターに任せる、というような使い方しかできていない現状では、まだまだ先が思いやられる。囲碁の人工知能「アルファ碁」が人間には思いつかないような奇抜な手を打ってきたと聞いたとき、かつてオートルーターに自動配置配線を任せたら予想もしなかったレイアウト結果を出してきたのを思い出して、しかし後者は全く使い物にならなかったなぁと苦笑したが。
いずれにしろ、設計に人工知能を活用するというアイディアはまだかなりの伸びしろがあるはず。全自動設計とまではいかなくても部分最適化は自動的にやるようになるだろう。発想を変えてこれまでの設計手法を見直してみると、良いアイディアが浮かんでくるのではないだろうか。

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くずれてしまえ

少し脱線するが、小説の感想を書いてみたい。

フィリップ・K・ディック「くずれてしまえ」(ハヤカワ文庫 SF1805 アジャストメント 収録、原題"Pay for the printer" 浅倉久志訳)

2月にUSに出張した際、向こうで封切りになった映画The Adjustment Bureau(アジャストメント)のCMをしきりにやっていて、原作を読みたくなったが、収録されている短編集「悪夢機械」はすでに廃刊となっていた。4月に早川書房から「アジャストメント」という新しい短編集となって再録された。「くずれてしまえ」はその中の一短編で、同様に「悪夢機械」から再録されたもの。

あらすじの舞台は、核戦争後の文明が崩壊した地球。人々は戦火を免れたモノのコピーによるわずかな文明の残滓に頼って生活している。無機物だけでなく、食糧などもコピー品だ。戦争で灰になったモノを材料に、ビルトングという異星生物がコピーを作り出している。
コピー品は時間が経つとやがて灰に戻ってしまう。人々はオリジナル品やコピー品をビルトングの元に持ち寄り、再びコピーを作ってもらうことで物質文明を細々と継続していた。
ビルトングも生物であるから、やがて死を迎える。人類より長生きのビルトングではあるが、地球上での生殖活動はうまくいかず、地球上では絶滅の危機が迫っていた。
老衰するビルトングに群がり、コピーを強要する人々。瀕死のビルトングが作り出すコピーはもはやコピーとは言えないほど劣化した「プディング化」した役に立たないものになっていく。崩壊していく物質文明の中で、それでもなお、人々はビルトングに頼りきり、コピーによって文明を保とうと必死になる様子が描かれていく。

そんな中、物語の終盤で主人公の仲間が取り出したのは、自らが削り出した木のコップ。不恰好なそれは高級なグラスとは比べ物にならないほど原始的であるが、コピーではなく「創り出されたもの」。主人公達は、コピーに依存するのではなく、一から創り出すという手段があることに気付き、長い道のりになるだろうが文明を再構築する希望を見出すのだった。

これが最初に書かれた当時、1956年の社会情勢がどうだったか想像するしかないが、おそらく、アメリカの「ものづくり」もアジアの(日本の)安価な模倣品の前に、危機感を募らせていたのではないだろうか。2011年の今日、この物語を読むと、中国製の安価で粗悪なコピー品にあふれた身の回りと、その圧倒的な物量の前に瀕死の日本のものづくりの現状を想起せざるを得ない。
オリジナルを作ってきた国が、コピー品に対抗してコピー品を作るようになったら、ものづくりはもはや消耗戦でしかない。長年、アジアの国々の安価な労働力に支えられた経済に苦しんできたアメリカが、いまなお多くの成功した会社やブランドを保ち続けているのは、ものづくりの根幹にある「創り出すこと」を放棄しなかったからにほかならないのではないか。

物語の中で主人公の仲間は言う。

「コピーというのは、たんなる模写だ。創作というのがどんなことか、それは口では説明できない。あんたが自分でやって、さとるしかない。創作とコピーとは、まったくべつべつのものなんだよ」

(昔の優れた品物を見ながら)「いつかは、またそんな品物ができるようになる……だが、われわれはそこへたどりつくのに、正しい道を―困難な道を―一歩一歩上がっていくんだ」
(粗末な木のコップを見ながら)「いまのわれわれは、まだこの段階だ。しかし、これを笑っちゃいけない。こんなものは文明じゃない、といっちゃいけない。これだって文明さ―単純で粗末であっても、とにかく本物だ。

われわれはここから出発するんだよ



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クロストークス Vol.3

昨6/30、某氏のお誘いを受けて横浜・関内のお店で開かれた「クロストークス」というイベント(飲み会?)に参加した。

顔見知りも多いと思いますと言われていたが、なにしろ初めてなのでドキドキしながら足を運んだ。
会場に向かうエレベータで某ZのO氏と会い、ホッとした。会場に入ったのはスタート時刻の19時を少し過ぎてから。目の前のテーブルに顔見知りが...某AのO氏や某CのF氏とか。奥のテーブルには某ZのM氏や某GのK氏も...と書いているときりが無いだが、大盛況で50人くらい参加者がいたうち、10人くらいは以前にもお会いしたことがあるかたで、あとで何人かの方にご挨拶させていただいた。主催した某氏ほか幹事メンバーの広い人脈に感服。

みなさんとお話しするのも非常に楽しかった~周りがプリント基板/設計/EDAに関わる方々だったので、話題も自然とそういう方向が多かった~が、ショーもプログラムされていて、充実したイベントだった。

Mifan(ミーファン)さんによるベリーダンス
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ベリーダンスはエジプト/トルコ辺りが発祥でジプシーにより各地に伝わり、スペインのフラメンコ、インドや東南アジアの民族舞踊の起源ともなったそうだ。Mifanさんが披露してくれたのは、最初のはエジプト風、あとのは現代アメリカでアレンジされたダンスだそうな。

今井あさ美さんによるステージ
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そのうちの一曲「Blossum」のPVがYoutubeで見れる

EDA 3人組(トリオ?)によるステージw
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某WのK氏はこのお店でギターを務める。某ZのO氏はピアノが弾けるなんて、意外!!上手!!カッコいい!! ボーカルの某GのK氏。歌詞カードで顔が隠れて...お誕生日おめでとうございますw

...というわけで、気がつくと終電の時間で、ギリギリまで楽しい時間を過ごすことができた。また誘ってください。

お話しさせていただいた東和電子さんから紹介された自社ブランドのUSBスピーカー。USBバスパワーで10W+10Wが出るそうで。USBポートは最大500mA(規格)ですよ。どうやって10W+10Wも!?

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回路設計者のためのKindle

Amazon Kindle DXを買った。

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まだ洋書しか出ていないKindle用の電子書籍には余り興味はないのだが、以前から手軽なPDFリーダが欲しかったためだ。
目的は、データシートなどの技術文書を現場で手軽に読みたいからで、パソコンではワークベンチ上に置く場所を確保しなければならないし、多くが縦長の文書を横長の画面で見なければならない。縦型画面のタブレット型PCというのもあり、もちろん既に試しているのだが、第一に画面の解像度(XGA: 1024×768ドット)が足りない、第二にバッテリ持続時間が短いという欠点がある。(そういう意味では先頃発表されたアップルのiPadも要求を満たさない)
なので、電子ブックリーダは数年前から欲しいと思っていたし、次の米国出張でもあればアウトレットモールにあるSony Shop辺りでSony Readerを買ってしまう可能性が非常に高かった。昨年、Kindle (Kindle 2)が日本でも買えるようになったときは、PDFが読めないという欠点がファームウェアアップデートで解消された後も、800×600ドットという解像度の低さがネックで検討対象にはなっていなかった。

Kindle DXは1280×824ドットと、XGAよりは少し高い解像度であり、PDFにも対応している。周りで他に使っている人がいないので使用感は自分で確かめてみるしかなく、思い切って購入してみた。

さて、ここでは回路設計者(エンジニア)が使うツールとしてのKindleという視点でレビューしてみたい。

データシートビューワとしてのKindle

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ご覧の通りA4程度のデータシートを全画面表示しても難なく読むことができる。

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近付いて見てもこのように非常に精細できれいに表示されていて読みやすい。

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もっとも、同じデータシートをXGA画面のタブレットPCで表示しても、このように読むことができるので、通常のデータシートやアプリケーションノートの本文であれば、解像度の低いKindleでも読むことはできそうだ。

ただし、データシート類には図表の中に細かい文字が含まれることがある。

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例えば、このようなブロック図中の文字。

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Kindle DXではかろうじて読むことができる。

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タブレットPCではちょっとキツい。

KindleのPDFビューワは、しおりやリンクには対応していない。このため、目的の内容にたどり着くには、1ページづつ繰っていくか、目的のページ数にジャンプするか、文字検索を使うしかない。検索はさほど早くないので、現実的には目次ページを開いて目的の項目を探し、ページ数を入れてジャンプするという使い方になるだろう。
これらに不満がある場合には、PDFをKindleネイティブの形式に変換する方法がある。ユーザ名@free.kindle.comというアドレスに題名を"Convert"としてPDFを添付してメールすればよい。変換された拡張子azwのファイルが送られてくるので、これをKindleに転送する。もともと、PDFが読めなかった(DXでない)Kindle/2のために用意された方法だが、Kindle 2もPDFに対応したのでいつまでサービスが続くかは不明。

この方法でKindle形式に変換すると、元々PDFが持っていたリンクを使える他、単語毎に辞書"The New Oxford American Dictionary"の結果が表示される、アンダーラインや注釈が付けられる、音声読み上げができるといった、電子ブックならではの機能を活用することができる。また、検索も複数の結果一覧が表示されて好みの場所にジャンプできるなど使い勝手が良い。
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ただし、最大の欠点は図が失われ表も崩れ、インデントも失われてしまうこと。データシートは図表が多いので、この点は致命的だ。
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回路図ビューワとしてのKindle

さて、筆者が小型のKindleでなくKindle DXを選んだ最大の理由は、これで回路図を見ることができるか、という点にある。これは極めて野心的な試みで、XGAの解像度では回路図1ページを全画面表示して読むことは難しく、800×600ドットのKindleではムリなことは明らかだ。

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PDFは横幅いっぱいに表示されるので、普通の持ち方ではこのようになる。

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KindleはGセンサーで保持方向を認識するので、横にするとこのように表示される。回路図全体を把握することは可能だ。

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回路図のページ設定によると思うが、部品番号や定数など細かい文字はぎりぎり読めるか読めないか。残念ながらKindleのPDFビューワには拡大機能が無いので、つぶれて読めなくてもこれ以上どうしようもない。
あまり期待していなかったが、意外にも回路図を見ることはできそうだ。ただ、拡大機能が無いと日常的に使うことは難しいかもしれない。

エンジニアの読書のためのKindle

現状、日本語に対応していないKindleだが、日本語フォントが埋め込まれたPDFであれば表示することができる。先のエントリで取り上げた電子出版されている雑誌は、Webブラウザ上の専用リーダで読むのが普通だが、幸いなことにどれもPDFに出力できる。

EDN(英語版)。
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Interference Technology日本版。ちなみにこの記事、トピックは良いのだが訳に難アリ...。
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EE Times Japan。版型が横長なので横にして読むとフィットするのだが、ページの下端が切れる。
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Kindleには簡単なWebブラウザも付いていて、英語のページであれば読むことができる。
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ただし、日本語には対応していないので、日本語ページはこのように表示されてしまう。
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当然、Amazon.comで扱っているKindle向けの電子書籍を購入して読むこともできる。事前にジャンルだけで見たら電気系エンジニア向けの本は無さそうだったのだが、探してみると結構見つかった。

スワミナサン教授の本も。
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中身はこのような感じ。サンプルが読めるのであらかじめ内容を確認できる。
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ざっと見つけた本は、
Power Integrity Modeling and Design for Semiconductors and Systems (Prentice Hall Modern Semiconductor Design Series' Sub Series: PH Signal Integrity Library)
Signal and Power Integrity - Simplified (2nd Edition) (Prentice Hall PTR Signal Integrity Library)
Jitter, Noise, and Signal Integrity at High-Speed (Prentice Hall Modern Semiconductor Design Series' Sub Series: PH Signal Integrity Library)
Timing Analysis and Simulation for Signal Integrity Engineers (Prentice Hall Modern Semiconductor Design Series' Sub Series: PH Signal Integrity Library)
A Signal Integrity Engineer's Companion: Real-Time Test and Measurement and Design Simulation (Prentice Hall PTR Signal Integrity Library)
Semiconductor Modeling:: For Simulating Signal, Power, and Electromagnetic Integrity
これらはKindle Storeで購入すると、3Gワイヤレスを経由してKindleにダウンロードされる。価格も書籍より電子ブック版の方が少し割引されるのでありがたい。例えばスワミナサン教授の本は元値$104、デジタル版は$84。現時点ではさらにディスカウントされていて$58.16で購入できる。ただ、そう考えると日本語版は大変おトクな価格となっております。

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Yash Terakura氏の消息

以前のエントリコモドールについて書かれた本のレビューを書いたが、同書に登場する日本人エンジニア「テラクラ・ヤサハル」氏の消息が気になっていた。これを書いた当時もさんざん探したつもりになっていたが、どうも探し方が悪かったようだ。

検索してみると、Yash Terakura氏が2007年にThrowback Entertainmentというカナダの会社のCTOに就任したというプレスリリースが見つかった。プレスリリースには同氏の経歴も書かれており、「コモドールの創立メンバーの一人であり、VICやコモドール64の設計とエンジニアリングを担当。その後HALアメリカの社長、マテル、アタリなどのコンサルタントを歴任」されていたようで、どうやら間違いなく本書に登場するテラクラ氏であるようだ。現在に至るまでコンピュータ・エンタテインメント業界に関っているということで感慨深い。…というわけで、なんだかスッキリしたので記録しておく。


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電子出版の可能性

先日の展示会でお会いしたEE Times Japanの記者さんが、「会社が変わりました」とITメディアの名刺をくれたが、転職したわけではなくEE TimesのE2パブリッシングがアイティメディアの子会社になったのだそうだ

EE Times Japanといえば、昨年までの紙媒体による雑誌を止めて1月号から電子出版になった。

紙と電子を平行して出す期間を設けずに、バッサリと切り替えるとはずいぶん思い切ったことをするものだと思ったが、もともと店頭で売っている媒体ではないのですぐさま部数減とはならないだろうからこそできたのかもしれない。
電子出版の技術系無料雑誌(フリーペーパー)では、テュフズードオータマInterference Technologyが2007年の創刊以来、電子媒体で発行されている。海外では紙と電子媒体の両方を発行しているケースが多いようだが、アメリカの無料雑誌、例えばEDNなどは日本で購読すると電子形式しか選べないという場合もある。昔は紙でも送ってくれてずいぶん太っ腹だなぁと感心していたが、配送料を考えると電子媒体での配布に切り替えるのは至極当たり前。それでも、Semiconductor Internationalなどは(更新をしなくなった)最近まで紙雑誌を送ってきてくれたので、まだ太っ腹なところもあるのかも知れない。

読者の立場から言うと、手に取ってぱらぱらとめくりながら眺めることができる紙媒体の方が、パソコンが無いと読めない電子媒体の雑誌より数段読みやすいので、選べと言われたら紙媒体を選ぶ。
...と、つい昨年くらいまでは思っていた。
ここにきて、電子媒体を読む環境が...つまりパソコンの処理速度とか解像度とかいったものが...急に良くなったわけではないのだが、選べるならなるべく電子媒体を選びたい、と思うようになってきた。きっかけは、溜まっていく雑誌の山だ。
読み捨てても良い、陳腐化するあるいはその場で消費できる情報しかない雑誌であれば、定期的に捨てることにこだわりは無い。しかし、技術系雑誌、特にノウハウの詰まったものというのは、資料的な価値もあって後から参照することを考えると、なかなか捨てるにも決断を要する。とは言っても、結局捨てざるを得ないのだが。
あと「そういえば何かの雑誌に載ってたな」と過去記事を掘り起こすのも大変。
その点、電子媒体というのは、場所も取らないし検索も容易。最近ではハイパーリンクも活用して情報の幅を広げているものもある。

Interference Technology誌は電子媒体であっても紙の雑誌と同じフォーマットを守っている。米EDN誌も同様だ。それに比べてEE Times Japanのフォーマットは、従来の紙の形式にこだわっていない点が面白い。見開きの形で左右に2ページあるのではなく、1枚の横長のページで構成されている。PCの画面が大抵横長なので、こちらの方が読み易いかもしれない。

いずれの雑誌もそれぞれウェブブラウザ上で動作する独自の電子ブックリーダで読むようになっているため、原則ネットワークにつながっていないと読めない。ただ、PDF形式でダウンロードして読むこともできる。

先頃発表になったアップルのiPadで電子ブックの話題が再燃した。展示会でも、海外では技術書が電子出版されているなどという話題になった。雑誌のFujisan.co.jpを見ると工業・技術分野では日経BPが3冊、同社雑誌の特別版を出している程度で、寂しい限りである。

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Allegro SI その後

最初にお断りしておかなければならないが、Sourcelinkを見ると、使っている15.7というバージョンは既にサポート対象から外れていた。だから、このバージョンでの不具合について文句を言うのは筋違いで、最新バージョンや少なくともサポート対象のバージョンを使うべきところである。
このツールについて不平不満を言うのは、本意ではない。むしろ、サポート外のバージョンでありながら対応していただいていることは、大変ありがたい。

さて、クロストークの解析はその後、Allegro PCB SIで進めている。
前回の問題は、パッケージモデルがEBDファイルで提供されているIBISを、Allegro SIで使うDML形式に変換した際、デバイスのピン名が記述されているEBDファイルのピン名ではなく、IBISファイル内に書かれたデバイス内部(シリコン)のピン名が、DML形式のデバイスのピン名になってしまうという問題だった。これではAllegro上に配置されたデバイスのピン情報とモデルのピン情報が合わず、デバイスモデルをうまく割り当てることができない。
サポートから送ってきたファイルは、手作業でIBISファイルを書き換え、デバイスモデルのピン名を実際と合わせたものだった。問題が修正された変換ツール(ibis2signoise)を期待したのだが、手作業での泥臭い対応をしていただいた。数百ピンもあるから大変だっただろうに…。

修正されたデバイスモデルが入手できたので、とりあえず作業を再開することができた。
続いて、今度はメモリモジュールのモデルを準備する。メモリベンダのサイトでダウンロードしてきた、公開されているモジュールのモデルを変換する。こちらはモジュール内に複数のデバイス(シリコン)が乗っているので、単一のデバイスモデルではなく、仮想的なボードモデルに変換する。
残念ながら、こちらもうまく行かなかった。一見、うまく変換できたように思えるが、ボードモデルにコネクタが出ておらず、メインボードに接続することができない。
このため、JEDECからメモリモジュールのリファレンス基板データを持ってきて、その上にメモリのデバイスモデルを割り当てることにした。メインボードと同様、メモリモジュールの基板データを開いてこちらに必要な設定をほどこしていく。
メモリモジュールとメモリデバイスでピン名の表記ルールが異なっていたため、修正するのが大変だったが、なんとかモジュールのモデルを作ることができた。DDR2メモリはドライバ・レシーバとも複数のバッファモデルを持っているので、この時点で適切なバッファモデルを選択しておくのも重要だ。
実際には、アクセスされるデバイスとそれ以外で内部終端(ODT)の設定が必要で、アクセスパターン毎にダイナミックにバッファモデルを切り替える必要があるのだが、これにはシミュレータが対応していない。

メインボードに戻って、Designlinkという機能を使ってモジュール基板と接続する。Designlinkの設定方法は初めてだと戸惑うかもしれない。ここは何度も経験しているのですんなりできた。

解析対象となるメモリバスをバス指定する。リードとライトで信号の方向が異なるので、アドレス・コマンド系の信号とデータ系の信号を最低限分けておく必要がある。この作業はコンストレイントマネージャ(Cmgr)上で行うと操作しやすい。シミュレーションできるかどうか確認するため、アドレス・コマンド系だけシミュレーションしてみると、しばらくして結果が得られた。どうやら無事シミュレーションはできるようだ。

シミュレーションのパラメータを設定する。
まず、動作クロックとクロストークの対象となる範囲を設定する。デフォルトより範囲を広げ、また結合しているとみなす平行配線長を短くすると、シミュレーションに要する時間がかなり長くなった。このパラメータは、Reportメニューから平行線長レポートを出して、不必要に厳しい値にならないように調整するのが良いだろう。
バス指定をすると、バス内の信号の進行方向は同じになるだろうと思っていたが、どうもそうはならないらしい。クロストーク解析の設定で、信号方向を逆(odd)か同じ(even)か、あるいは両方かを指定する必要があった。一般にクロストークノイズはoddで大きく出る(近端クロストーク:NEXT)が、バスの場合、隣接する信号は同方向(even)なので遠端クロストーク(FEXT)だけを気にすればよい。NEXTも考慮すると過大評価になるおそれがある。
バス毎にクロストークを解析する場合はevenに設定しておけばよい。ただし、その場合、バスの端にあり他のバスや信号とカップリングする信号はNEXTが考慮されないので、過小評価になってしまう点に注意が必要だ。
バス内はFEXTのみ、バスとバスの間、あるいは他の信号との間はNEXTも考慮した解析を自動的にやってくれると助かるのだが。

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