« November 2019 | Main

新しい「設計・開発」様式

先日、JIEPシステム設計の通常研究会(非公開)で自身のリモートワーク環境を紹介させていただき、設計・開発業務におけるリモート作業の問題点を議論の俎上に乗せてみた。ここでは、この状況下に於いて設計開発環境について思うことを書いてみたい。

リモートワーク・テレワーク・在宅勤務

新型コロナ流行の兆しが見られた1月末頃から会社はリモートワーク(弊社では”Work from Home”でWFHと呼ぶ)推奨となった。この辺の対応の早さはさすが外資系。最初の2週間は様子を見ながら出社していたが、2月後半になると世間的にもリモートワークの風潮が広がり、以降GW明けに緊急事態宣言が解除されるまで、ほぼ毎日在宅勤務をしていた。

世間的には「リモートワーク」というとZoomやTeamsを使った多人数での顔を見ながらのWeb会議、というイメージなのだろうが、普段からラボに籠って一人で作業することがほとんどで、もともとチームもワールドワイドに居るので、チーム内外のミーティングでTeamsを使うことはたまにあっても「リモートワークだから」という理由ではない。

だから自分にとってのリモートワークとは、ラボの機器類にリモートで入って、テスト対象の機器や試験・計測装置を制御するのが実作業となる。リモートワーク体制に入る前の2週間程度は、その準備のために出社していたようなものだった。

この新型コロナの蔓延が無くても、その前から「働き方改革」の一環で「テレワーク」の推進が唱えられてきた。特に、満員電車を無くすことを選挙公約に掲げてきた小池知事率いる東京都は、都下の企業にテレワーク推進週間への参加を求め、弊社もテレワークのトライアルで全社員在宅勤務を指示された日があった。

一日程度ならラボの機器に触らずに業務を進めることも可能だろう。納期間近とかトラブルの最中でなければだが。むしろトライアルで困ったのは仕事場所が無いということ。自宅で良さそうなのだが、意外に「在宅勤務」と「有給休暇」の違いに家族の理解が得られておらず、在宅ならば家事を手伝えとか、仕事するなら外に行けと、自宅で仕事はしにくいことが分かった。かといって、外に行っても長時間良好なWi-Fi環境で仕事ができる場所は意外に少ない。カフェやレストランで長居するのも迷惑だし、無料Wi-Fiを提供している店でも30分~1時間程度の時間制限があったりする。店内やオープンな公共スペースで声を出してWeb会議も周りに迷惑だろう。整備されつつあるサテライトオフィスも企業毎の契約ベースが中心で、個人だと声を出さないならネットカフェ、出すならカラオケルームを利用するしかない。図書館や公民館、市役所、市民センターなどの公共施設でテレワーク可能な座席を整備してもらえたらいいのだが。

電子化・仮想化

在宅勤務できない理由のひとつに、書類を持って行ってハンコをもらわなければならないから、というのがあり、特に若い世代からは失笑を買っていたが、実際、日本のハンコ文化は根強い。いや、海外企業だって「紙にサイン」の必要がまだあったりする。また、会社に置いてある資料を参照する必要があるとか、何か会社に置かれている物理的な実体にアクセスするために出勤しなければならないケースは多い。

ペーパーレス、電子化、仮想化、クラウド化...我々は何十年もこういったことに取り組んできた。しかしなかなか思うようには進んでいない。この数年でようやくドキュメントや図面が電子化するようになって紙資料が減り、シミュレーションによる試作レス、デジタル・ツインによって設計品の実体化回数も削減し、サーバー・ストレージといった実体資産を持たない方針(アセット・ライト)からクラウドサービスにデータを預けるようになってきた。しかしまだまだ道半ば、知的財産保護や情報漏洩といったセキュリティの懸念、サービスの継続性など運用面での課題もあるが、最大の障壁は、画面で見るより紙で見たいとか、シミュレーションの結果が信用できないとか、手元にデータが無いと不安という人間の心理からくるのではないだろうか。

アイディアや著作物のように「情報」を商品とするものは、本やCD、ビデオ、ゲームのように、デジタル配信という形で実体物を経ずに商品化できるようになり、一般にもずいぶん浸透してきた。これらは最初から最後まで非実体化=電子化することができるようになった。しかし、多くの「ものづくり」は最終的に実体物を生み出す必要があり、電子化・仮想化には限度がある。

開発製品も電子化・仮想化ができれば、試作評価をリモートで行うことも難しくない。しかしまだ実機評価が不可欠なので、冒頭に書いた通りリモートワークのための「仕込み」を行ってようやくある程度できても、いろいろな制約がある上に、開発中製品などそもそも不安定で実機に触れずに作業を進めるのは極めて困難である。評価・試験の類が定型化できて、自動化できる治具が揃っていてやっとリモートにすることができる。例えば量産での試験工程のような定型化と設備投資が必要だろう。それはあまり現実的ではない。

まとめると、開発工程の中で設計のフェーズは電子化できてリモートワークにも適合するだろう。実験が必要な場面もあるだろうが、シミュレーションで賄える部分も多いだろう。試作以降の実体化、デバッグや評価はまだリモートにするのは難しい。できるだけ定型化・自動化することで「手離れ」させる工夫が必要だ。

新型コロナのもたらしたもの

働き方改革や開発コストの削減といった全く別の目的からこれまで進めようと取り組んできたことを、図らずも新型コロナが加速させている。勤務時間と勤務地という時間と場所に縛られてきた人間の仕事を「解放」する破壊的な推進力になった。同時並行的に進んでいるAIの進化と発展によって、いずれ発生すると言われている人間の仕事からの「解放」にも一役買っているのかもしれない。SF的に妄想すると、遅々として進まない人間の意識改革に業を煮やしたAIが武漢の生物化学研究所にある保管容器の電磁バルブを開けたのではないか。こうしてシンギュラリティーに一歩駒を進め、「望まない」仕事から一刻も早く解放されることを願ってやまない。

しかし、我々の第二次産業は一番後かもな。第一次産業の原料生産は完全自動工場ができそうだし、第三次・サービス業はバーチャルエージェントやロボットで代替できるし、第四次・情報産業はそれこそAIが全てやってくれる。工業製品の設計試作評価の完全無人化は一番難しいと思うよ。

| | Comments (0)

« November 2019 | Main