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[ブックレビュー] 忘れ去られたCPU黒歴史

テクニカルライター 大原雄介さんによるascii.jpの人気連載「ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情」から、「CPU黒歴史」シリーズが本になった。

忘れ去られたCPU黒歴史 Intel/AMDが振り返りたくない失敗作たち (アスキー・メディアワークス刊)

さっそく読んでみたので感想を書いてみたい。とは言っても、普通にレビューしても面白くないし、これまで仕事で関わったCPUも紹介されているので、思い出を振り返りつつ感想を書いてみようと思う。

最初に紹介されているのがインテルのTimnaで、これを使ったPCを設計していただけに非常に懐かしい。当時はCPUの外にメモリコントローラを内蔵したチップと、当然グラフィックコントローラ(GPU)を持たせるのが当たり前だったので、CPUとメモリコントローラ、GPUを1チップにしたのは画期的だった。PCの世界ではCPUにメモリコントローラを内蔵するのは同じ時期のTransmeta Crusoe TM5400/5600が初めて。GPUまで内蔵するのは、パッケージレベルではインテルのClarkdale/Arrandale(初代Core i5/3)、ダイまで統合するのはAMDのLlano/Ontarioなので、ごく最近まで待たなければならない。
※もっとも、組み込み向けではこの程度のSoCは珍しくない。メインストリームで大規模に実装しようとしたのは画期的と言える。
本書にも書かれている通り、失敗の大きな要因はメモリコントローラがDirectRAMBUSだった点にある。当時、ラムバスのDRAM(RDRAM)のベンダーが少なくエルピーダとサムソン、あとマイクロンぐらいだったこととラムバスへのライセンス料のせいか、価格が一向に下がらなかったので、上では採用を躊躇していた。
※当時、マイクロンはインテルのラムバス戦略にも乗りつつ、AMDとはDDRメモリを推進していた。あれはうまい「二足の草鞋」戦略だった。
しかし、インテルがRAMBUS-SDRAM変換チップ(MTH)を無償で付けるというような提案をしてきて、SDRAMを使ってプロジェクトはスタートした。ところが、本書にもあるようにこのMTHがなかなか出てこなくて、やきもきしているうちにTimna自体がキャンセルになってしまったのを覚えている。
せっかくGMCHを統合してチップ数を減らしたのに、MTHという外付けチップが必要なんて、本末転倒だった。メモリコントローラをコンサバなSDRAMにしておけば、歴史に残るCPUになったに違いない。

続いて紹介されるインテルのRISCチップ自体は、PCのCPUとして採用されることはもちろん無かったが、当時担当していたFM-Rシリーズにはオプションで「i860カード」(i960だったかもしれない)というオプションカードがあった。設計に関わったわけではないが、何かのトラブルで出荷後に「差し込み」(注意書きのようなビラ)を入れることになり、倉庫に出張して出荷前の梱包を開けて作業した思い出がある。FM-Rは業務用に特定用途で使われる場合も多く、あのオプションカードは一体どんなお客さんが、何に使ったのだろうか。

AMDのCPUは、PCを設計していた頃には直接プロジェクトを担当することは無かった。しかし、この業界で2002年のMPF発表のAMD K8(Hammer)の性能を見て興奮しなかった人はいないだろう。当時、プロジェクト課長と今度は是非やりたいですね、と話し合ったのを覚えている。結局、他のプロジェクトでHammerのPC開発が始まり、ぜひやらせてくれと頼んでHyperTransportとクロック周りのシミュレーションをやらせてもらった。
インテルと違ってAMDはシミュレーションモデルの出来がイマイチだったり技術情報も充実していなかったが、クロックラインは初体験のACカップリングだったり、多レーンの高速差動信号を評価したりと、なかなか勉強になった。
もっとも、このプロジェクトも難産で、確か日本ではAMD K8のPC開発プロジェクトの先頭を切っていたはずだが、ずいぶん延期々々を繰り返したと思う。本書にあるようなCPUのリリース遅れが直接の要因ではなく、チップセットが当初予定されていたAMD製が遅れたのかキャンセルになってnVidia製CK8に変更になったことや、OSがWindows Media Center Editionというこれまた新しいものにTV視聴機能を持たせたりと、新しいことを盛り込みすぎた感が否めない。もっとも、K8自体が本書に取り上げられたのも、全く新しいアーキテクチャを全く新しいプロセステクノロジで作ろうとしたためであり、根っこは同じなのかもしれない。
そういう意味でいろいろと画期的だったこの装置は、2005年に今の会社に入社したとき、まだメーカーのカタログに残っていたので驚いたものだ。

この後につづく初代K10も殿堂入りしている。予想外の高い消費電力の理由について、大原さんの予想は当たらずとも遠からず...浮動小数点演算ユニットが128bitになったた...うわなにをするやめくぁwせdrftgyふじこlp;@:「」

Elanに関しては文章のそこここに著者の愛を感じる。気のせいかも知れないが。これを使った黒歴史プロジェクトが日本にもありましたね。ElanやGeodeなどの組み込み系プロセッサのエンジニアはまだ相当数会社に残っていて、皆さん素晴らしく優秀なエンジニアです。若輩者にも丁寧に教えてくれるベテランエンジニアって感じで。こういうエンジニアを大切にする文化こそ大切にしたいものです。

思い出をつらつら連ねつつ、別のCPUなりプロジェクトにまで話を広げようと思ったけど、とても長くなりそうなのでまた何か機会があれば書いてみたい。

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Comments

著者様直々にコメントいただきありがとうございます。
GPU編の方も楽しく読ませていただいております。チップセットも結構クロいのがありますが、そんなことを言ってるとキリがないですね。なにしろ数々の失敗あっての今の技術ですから。こんどオフレコで是非お話ししたいですね...。

Posted by: arap | 2012.07.12 at 04:05 PM

丹念な感想、ありがとうございます。

128bit化したFPUは勿論脳裏を掠めたんですが、FPUをまるで使ってない場合でもえらく消費電力が多い理由にならないんですよねぇ。流石にClock Gating位はしてたわけで(Power Gatingはまだですが)。勿論FPUも大問題だったのは間違いない(普通はFPUとかSIMD使うとALUより消費電力落ちるのに、K10落ちませんでしたから...)んですが。

Posted by: 大原 | 2012.07.11 at 10:45 PM

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Tracked on 2012.07.11 at 10:36 PM

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