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[ブックレビュー] On the Edge - The Spectacular Rise and Fall of Commodore -

先日読み終わった%表題%の感想を。

コモドールというパソコンメーカは、80年代初頭の8ビットパーソナルコンピュータ(当時はまだ「マイコン」という呼称でも呼ばれていた)黎明期に、日本でもアップルII※と並んでVIC-1001が、珍しい輸入パソコンとして雑誌の広告を飾っていたのと、90年代初めの16ビットパソコン全盛期には、AMIGAというパソコンで一世を風靡したので、名前くらいは覚えている人も多いだろう。
国内ではマイナーな存在だったが、8ビット時代にリリースされたコモドール64というパソコンは、単一の機種としては世界で最も売れた機種であり、いまだにその記録は破られていない。
※リンク先がWikipediaばかりになってしまって申し訳ない。リンク先に書かれた「世界で初めて個人向けに完成品コンピュータとして大量生産・大量販売されたパーソナルコンピュータである」という記述は、本書を読めば判るが、正確ではない。

世界の趨勢がIBM-PC互換機、マイクロソフトWindows機に凌駕されていく中で、1994年に幕を閉じたこの会社のパーソナルコンピュータビジネスを、10年経って振り返ったのが本書である。

コモドール自体は電卓ビジネスの会社だったのだが、本書のストーリーはチャック・ペドルという一人の技術者が、勤めていたモトローラで6800の低コスト版である6502を設計し、スピンアウトしてMOSテクノロジという会社を設立するところから始まる※。
この6502というマイコンは、後にコモドールのライバルとなるアップルIIや、任天堂のファミリーコンピュータ(ファミコン)などにも採用された8ビットCPUの、いわば名機である。
※モトローラに訴えられることになるが、6502の前身、6800もペドルによる設計である。

その後、MOSテクノロジがモトローラとの特許係争で資金難になりコモドールに買収されることで、コモドールのパソコンビジネスが幕を開ける。最初のPET2001というディスプレイ一体型のパソコンは、ごく初期に、しかも低価格で発売されたことからヒット商品となり、その後のコモドール64の大ヒットの素地を築き上げることになる。
本書では、8ビット時代の開発ストーリーが丁寧に書かれており、日本でも有名になったAMIGAが登場するのはずっと後のことになる。最初、チャック・ペドルを中心に語られるストーリーは、彼の退社と次世代のキーとなる技術者の登場によって、その時代々々でのキーマンを軸に展開していく。
例えば、SIDというサウンドチップ、後に開発者たちはエンソニックというオーディオ半導体※の会社を立ち上げることになるのだが、これの開発ストーリーも関係者の証言を拾い集めて丁寧に描かれている。
※リンク先にある通り、現在では電子楽器メーカに転身している。半導体部門はクリエイティブテクノロジーに買収された。

驚いたことに、日本ではさほど注目されていなかったこの会社が、実は日本とは因縁めいた関係があった。
インテルのCPU開発が、日本の技術者によって始まった(4004)ように、本書でも日本人技術者の名前(ヤシ・テラクラ)が度々登場する※。実は製造を日本のメーカが請け負っていたのだそうだ。
もう一つ、社長であるジャック・トラミエルは日本市場をターゲットにしていた。ターゲットといっても、販売対象としてではなく、8ビット時代に数多くのパソコンを産み出していた日本のメーカが、世界市場に進出しないようにすること、そのために世界でのシェアを押さえるという目標を持っていたというのだ。
※テラクラ・ヤサハルと書かれた氏の消息をご存じの方は教えていただきたい。あと、コモドールジャパン、のちにアタリジャパンの社長をされた東海太郎氏も。

コモドール製品の一貫したコンセプトは、低価格。ジャック・トラミエルは電卓時代からそのポリシーを貫き、そのためライバルであるアップルのような高級路線、高価格市場への進出を指向する幹部との対立で人材を失ったりもしたのだが、低価格を維持するために半導体部門(MOSテクノロジ)を抱え込んでいたというのは、ファブレス全盛の現在から見ると実に興味深い。

トラミエルは経営方針の違いから、大株主であるアーウィン・グールドと対立してコモドールを去り、あろうことかライバルであるアタリに鞍替えするのだが、グールドは株主以上の経営者ではなく、パソコンビジネスの未来図を描けなかったことから、AMIGAという技術的に素晴らしい製品を持ちながらも、それを生かしきれないマネジメントの混乱が、最終的に会社の終焉という結果を招いた(という書き方である)。
Windowsという時代の流れに適応できなかった、と言ってしまえば簡単なのだが、いまでもアップルは生き延びている事実を考えると、マネジメントの失敗という要因も必ずしも否定できない。

個人的には、AMIGAのチップセットを設計したジェイ・マイナーは最も尊敬するエンジニアの一人だが、彼の活躍にはそれほど多く紙面を割かれてはいない。どちらかというと変人扱い?

本書より少し前に、最盛期にコモドールのマーケティングを統括していたマイク・トムチェクが、やはりコモドールの歴史を書いている。そちらは絶版になっているようだが、ネット上に全文を見つけることができたので、こちらも読んでみたい。

約十年にわたり、数えるほどの機種ではあるがパーソナルコンピュータをゼロから開発してきたエンジニア達の、苦労や成果が、本人や関係者への取材で生々しく語られており、技術者には非常に面白い読み物であると同時に、様々な成功と失敗のストーリーはビジネス書としても参考になるのではないかと思う。

既に無くなってしまった、日本ではそれほど知られていない会社の歴史を描いた本なので、邦訳が出る見込みは極めて薄いが、少なからぬ日本との因果関係も含めて、日本人にも是非読んでみていただきたい本である。

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Comments

POKEPPEK2011さん、コメントありがとうございます。
このエントリを書いた2年後、偶然、寺倉さんのお名前を見つけ、以下のエントリを書きました。
http://arap.way-nifty.com/siblog/2010/02/yash-terakura-d.html
さらに嬉しいことに、こちらにご本人からコメントをいただきました。ご健在のようで何よりです。

Posted by: arap | 2012.05.11 02:05 PM

ジャク・トラミエル氏が2012/04/08に亡くなられた(83歳)に関連し、懐古ムードになり、東海太郎氏を検索していたら、たどりつきました。東海太郎氏の消息は分かりませんが、Yash Terakura(寺倉康晴)氏はハワイ在住と聞いています。寺倉氏の消息は任天堂社長の岩田聡氏ならご存知でしょう。岩田氏が東工大学生のころ、懇意にされていました。

Posted by: POKEPPEK2011 | 2012.04.30 08:48 AM

BUSHさん、コメントありがとうございます。この本は非常にエキサイティングな内容で面白いのですが、マイナーな会社なのとつぶれて時間も経っているので、和訳の刊行を打診した出版社からは断られてしまいました。機会があればいいのですが、出版は難しそうですね。

Posted by: arap | 2011.01.04 02:22 AM

コモドール社の歴史に凄く興味があります。日本語訳版、出版されへんかなぁ・・・。

Posted by: BUSH | 2010.12.31 11:14 PM

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