11/18(金)午後に開催されたAsian IBIS Summitに出席。

日本での開催は今回で6回目となる。横浜での開催は初めて。会場となったパシフィコ横浜の会議センター内の会場は広く、ET2011とEDSFairとの併催ということもあって、160名を超える出席者と過去最大規模(開催者発表)だった。
IBIS Committeeからの参加は、前チェアマンのBob Ross (Teraspeed)と現ライブラリアンのAnders Ekholm (Ericsson)。あとスピーカーとしてSimberianのYuriy Shlepnevを加えた3名が海外からの参加者だったため、ほとんどのセッションが日本語で行われた。過去のIBISサミットは基本的に英語で行われていたので、例年とは毛色の違うミーティングとなった。なお、プレゼンテーションはIBISウェブサイトからダウンロードできる。
1. IBIS Update and Parsers (Bob Ross, Teraspeed)
開催の挨拶の後、BobからIBIS Committeeの活動内容報告があった。Spiceサブサーキット記述を取り込むIBIS-ISSを規定して10月に発行したほか、IBIS 5.1の策定が大詰め、品質委員会でIBIS-AMIの内容を追加した品質仕様の改訂を行っている。
将来的には、IBIS 5.2(または6.0)の検討、Touchstone 2.1の検討といった作業を予定しているとのこと。
Parser(チェックツール)のメンテナンスも重要な仕事で、IBIS 5.0までをチェックするibischk5のアップデート状況や、Touchstone 2.0をチェックするtschk2の内容が解説された。tschk2はTouchstone 1と2の相互変換や、Y, Z, G, Hパラメータの正規化・非正規化もできるようだ。
2. Quality of S-paramete models (Yuriy Shlepnev, Simberian)
主にチャネル構成要素をSパラメータで表す、いわゆるSパラモデルが持つ問題と、見分け方、モデルとしての品質をどう評価するかといったトピック。
問題としては、可逆性(対称性)、受動性、因果性が守られていないというのが典型的なケースである。これらが発生する要因は、現実問題として測定(解析)周波数帯域が有限である点、測定(解析)値が連続でない点、測定ノイズや人為的ミスも考えられる。有限で不連続な測定点はたいてい外挿や内挿によって補完されるが、その方法が常に適切だとは限らない。ノイズ除去の方法についても同様。では、できあがったSパラモデルの正確さをどのように推定して、品質を評価するかというのがこの発表の趣旨である。
このセッションでは数学も使ってかなりシステマチックに推定・評価する手法が提案された。また、SimberianのツールではSパラメータの品質レベルを評価し、可能であれば妥当なものに修正する機能を提供しているそうだ。
数式をふんだんに使った資料は、シグナル工房の野田さんが和訳も作ってくれたので大変わかりやすくてよかったと思う。興味のある方は問い合わせされるといいだろう。
3. IBIS Model as de-facto standard (WADOW 楠さん)
同じIBISモデルを使って、異なるシミュレーションツールで同じ結果が得られるだろうか。
この素朴な疑問を実際に試して比較した結果を紹介された。6つのシミュレータを使って得られた驚くべき結果は、差動信号のクロスポイントがツール間でばらつき、振幅1V程度のところ最大で150mV以上も違ったことだ。
「だからIBISは信用できない」ということにはならない。各シミュレータでIBISモデルの解釈が異なると理解するのが、まずは妥当だ。
他にも、テストフィクスチャの伝送路や終端をどう扱うか、反射はどうか、線路結合はどうか。加えて、クロスポイントのレベルはタイミングにも影響することを考えると、ばらつく要因を切り分けて明らかにする必要があるだろう。
驚いたことに、同じモデル、同じシミュレータでも、シミュレーション担当者によって異なる結果を出してくる場合があるということ。これを「ありえない」とみるか「ツールを使ってもノウハウの活きる可能性はある」とみるか。
4. DDR3 SI/PI Analysis Using IBIS5.0 (富士通セミコンダクター 大谷さん)
IBIS5.0で導入された、同時スイッチングノイズ解析用パラメータであるComposite CurrentとISSO PU/PDを使って、実際に同時スイッチングノイズを考慮したシミュレーションを行い、IBIS5.0の実力を評価した報告。
トランジスタモデル(spice)の精度に近づけるには、まず電源-GND間の内部寄生RCを入れないと波形が合わないということ、またタイミングを合わせるにはノイズの影響をI/Oバッファだけでなく前段の回路で発生するディレイも入れる必要があることが指摘された。
内部の寄生RCはspiceモデルから抽出できそうだ。ノイズによって発生する回路ディレイはうまく定式化かデータ化(テーブル化)してあげないと、IBISに取り込むのは難しそうな気がした。
5. IBIS AMI Seen from User's Viewpoint (KEI systems 前田さん)
IBISは内容がテキストで記述されているのでユーザは簡単に読むことができ、また一種の数値データなのでExcelでグラフ化したり、専用に波形を表示するツールもリリースされている(しかも無料で)。
しかし、IBIS-AMIは、そのご本尊がdllとかsoといったライブラリでバイナリ形式で提供されるため、ユーザからすると完全にブラックボックスである。前田さんの発表と同様、私も個人的に、ここに気持ち悪さを感じてきた。ユーザの立場では、提供されたAMIモデルをベンダーを信じて使うしかない。問題なくシミュレーションできて結果も妥当であればいいのだが、ほとんどの場合、使っているとトラブルは発生しうる。
例えば、ベンダーが検証しているシミュレーションツールとユーザが使うツールが違う場合、提供されたAMIが動く保証は無い。ちょっとした修正で互換性の問題は解消するかもしれないが、それもベンダー任せになってしまう。
ユーザとしては、EDAベンダーにAMIモデルの素性を分かりやすく表示してくれるツールを要望したいし、モデルベンダーにはモデルに関するドキュメント、特徴や使用上の注意を示したもの、と、さらに品質を保証するようなものが欲しいと考えるのは当然である。
6. Analyzing Crosstalk's Impact on BER Performance: Methods and Solutions (メンター 石川さん)
AMIモデルを使ったクロストーク解析の実際の手法について解説。シミュレータはアイダイヤグラムの生成を、従来通り多ビットのスティミュラスをチャネルモデルに流してシミュレーションする方法と、インパルス応答から統計的な処理で生成する方法を使うのが、最近のトレンドである。また、クロストークの解析は、ビット変化を同期させて行う方法と非同期を行う方法がある。クロストーク量を前者では少なめに、後者では多めに算出してしまう傾向がある。
発表の内容自体は正直言ってよく判らなかった。要点がつかめない、というのが正確なところか。要するに、高速シリアルリンクの解析にはIBIS-AMIを使うのがベストで、メンターのツールでも扱えますよ、と言いたいのか。
7. Supporting External circuits as Spice or S-parameters in conjunction with I-V/V-T tables (ケイデンス 益子さん)
オンダイターミネーション(ODT)の周波数依存特性を表現するため、またダイの再分配層(RDL)の周波数特性を記述するため、ダイからパッケージの間のIBIS記述を拡張させたい、というBIRD144およびBIRD145の解説。
従来のバッファモデル記述とAMI、新たに提案された回路記述またはSパラ記述を任意に組み合わせて使うことを想定している。
現状では[External Circuit]キーワードで外部回路記述やSパラ記述もサポートされているが、それぞれラッパーをかましてやらなくてはならなかったり制限があって使いにくい。そうした部分を無くしてモデルのフレキシビリティーを上げようというのがこの提案の趣旨のようだ。
8. Model Connectivity in PDN Analysis for 3D-SiP (ATEサービス 本田さん)
マルチチップ積層の電源(PI)解析について。シリコンインターポーザーに複数ダイを並べる(いわゆる2.5D)と、ダイを積み上げる3Dスタッキングでは後者の方が電源的には厳しい。さらにワイヤボンドよりTSVで供給するとなるとさらに厳しい。こういった点を解析するにあたって、チップ間の接続を表現する方法が標準化していないので、扱いが面倒。Sigrityが提唱する接続プロトコル、MCPはIBIS規格の中では批准されなかったが、半導体の規格の中で標準化を働きかけているそうだ。
会場が広く参加者が多かったためか、最初のうちは会場からの質問もあまり出ず心配したが、中盤から活発な質問や意見が出されてなかなか活気のあるミーティングになって良かった。イベント併設の開催だったため、出席者もユーザーが多かったと思うが、今回は講演内容もユーザー視点のものが多かったので高い関心が得られたのではないだろうか。
これまでJEITAの会議室で小ぢんまりと開催されていた会議が大規模になって参加者層も変わり、EDAベンダーや一部の先行したモデルベンダーとユーザーが主導してIBISとシミュレーションの先端の議論から、より実地に広く使われていく内容に変わるフェーズの変化は、IBISの普及と業界の活性化という観点から良いことと捉えるべきなのだろうと感じた。
毎年、このようなすばらしいイベントを運営されているJEITA EDA WGの皆様のご尽力に感謝したい。
さて、

サミット終了後、近くに場所を変えてプリント基板などの業界関係者+αで開かれたパーティー(第8回クロストークス)に参加した。サミットからBobさん、Andersさん、Yuriyさんも来られた。Andersさんはスウェーデンから来られたのだが、中国語が堪能でビックリした。難しい講演をされたYuriyさんも大変気さくな方で楽しくお話できた。毎年IBISサミットでお会いするBobさんは、今回のアジアツアーで風邪を引かれたそうでノドが辛そうだった。この後、台湾もあるそうなので、どうかご自愛いただきたい。
[2011.11.26 追記] IBISサイトに資料がアップロードされたので加筆。
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